「逆輸入CD」禁止で洋楽海外盤も消える?

国内アーティストのCDのアジア諸国からの逆輸入に歯止めをかけるための著作権法の法改正に関連して、「洋楽輸入盤CD全面輸入禁止?」なんて話題があちこちであがっていて、気になっていたんですが「はてなの杖日記」でのまとめのリンク先を読んでみて少し状況がわかってきたのでちょっと私見をまとめてみます。
http://d.hatena.ne.jp/munekata/20040406#1081233877
特に参考にしたリンク先は
http://www.yomiuri.co.jp/net/news/20040323ij21.htm(読売新聞)
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g15905091.htm(法案の原文)
http://blog.melma.com/00089025/20040331002604(今回の改正に関する国会議員からの質問趣意書と、それに対する文化庁の答弁の原文)
最初に書いておくと、国内盤が存在しないCDには今回改正される条文は適用できないので「全面禁止」ってのは明らかな誇張/誤解があるし、”いくつかの条件が揃えば”洋楽海外盤にも適用が可能というレベルの話のようなので、見出ししか読まずにすぐにでも洋楽輸入盤が全面的に消えるものだと誤解して、あれこれと言ってる人は少し落ち着いて、なるべくオリジナルのソースにあたってみましょう。
まず今回の改正は前述のように「国内アーティストのCDのアジア諸国からの逆輸入に歯止めをかける」ことを主な目的としてなされるものなので、本来は洋楽海外盤は射程外です、これが出発点。
ところが、その条文の文言におそらくは意図的に幅が持たせられている*1ために、一定の条件を満たした場合に限り洋楽CDにも拡張して適用することが可能となっています。
大まかに言うと、洋楽CDにも適用するための一定の条件とは「日本のレコード会社と洋楽の著作隣接権者である海外のレコード会社が協力し洋楽海外盤に『日本販売禁止』を明示すること」と「海外盤と国内盤の価格に著作権者の利益を不当に害するほどの著しい格差があること」の2つです。
まず後者の条件については、現在程度の価格差では「著しい格差」ではないとされているようです。この点については、「国内盤の価格を吊り上げて価格差を広げれば著しい格差は容易に作り出せる」かのように言っている人もいますが、たとえ国内盤の価格を上げて価格差が10倍とかになっても日本と例えば欧米諸国との物価を考慮すれば、「利益を不当に害する」と認定される可能性は低いと考えます*2
次に前者の条件について考えると、国内アーティストのCDの逆輸入の場合は国内のレコード会社が著作隣接権を持っているので自らの主導で『日本販売禁止』とすることができますが、洋楽海外盤の場合は著作隣接権者である海外レコード会社の協力を得る必要があります。
それではどんな場合に海外レコード会社が協力するかを考えると、洋楽海外盤の日本への輸出を停止するデメリットを考慮しても、日本盤の売り上げの増加だけでそのマイナスを補って余りあるメリットがある場合でしょう。
この場合、デメリットとしては現在の自社の対日本の輸出盤の分の売り上げが丸ごとゼロになってしまうこと。日本の消費者やアマゾン、タワレコ、HMVなどからの猛烈な反発が予想されること。などが考えられます。これに対してメリットは日本盤の売り上げがアップすることと(ただし枚数ベースで現在の日本盤プラス輸入盤のトータルより上になることはありえないので、うまいこと利益を上乗せしないとかえって損になるでしょう)、日本のレコード会社との関係がよくなることでしょうか。
メリットとデメリットを比較し、さらに世界的な自由貿易の流れの中で今回の法改正はそれに逆行するトホホなものであること*3、「国内アーティストの逆輸入盤」と「洋楽海外盤」の市場規模の圧倒的な差*4も考えあわせると、海外レコード会社が洋楽海外盤の『日本販売禁止』にイエスという可能性は低く、従って洋楽海外盤は消えないだろうと僕は思うのですがどうでしょう?
ってことで、洋楽輸入盤の輸入禁止なんて暴挙がなされるなら阻止しなきゃならないし、その可能性の芽があるなら早めに摘んでおくことも大事だけど、現在の状況を正確に理解しないで騒いでいても戦いに勝てるわけがないから、まずは一回落ち着いてオリジナルのソースをちゃんと読めや。と思った。

*1:幅を持たせたのは、将来的に洋楽輸入盤の輸入を制限するための布石だと考える人もいるようですが、特定の国や地域を狙い打ちにすると「自由貿易」とか「平等原則」とかにひっかかるんで、建前上は「アジア狙い撃ちじゃないよ」と言い逃れるためだろうと僕は思います。文化庁の人が答弁で「洋楽海外盤に適用するつもりはないよ」って言ってくれてればこんな騒ぎにはならなかったんでしょうが、本音を公にする馬鹿はいませんからね。-追記:「洋楽のCD等の輸入盤をレコード輸入権の行使対象としないという立法は,国際条約上不可能」なのが理由のようです

*2:物価に比して極端に高い価格を設定している者に保護されるべき利益は存しないから

*3:洋楽輸入盤にまで拡大すると法案が丸ごとつぶれてしまい自らの首を絞めることになる可能性がある

*4:市場規模が大きければ影響範囲が広くなり反発も大きくなるために、それだけ実現が困難となる